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830話 本屋大賞「羊と鋼の森」を読んでみた - 2016.05.10 Tue

 仕事にからむ小説は、職種が芸人であったり、辞書の編纂者であったり、献体遺体の管理者であったりして、一般の者が中に入れない世界であれば、それだけで興味をそそられます。
 まして、すごい装置を開発したり、治療法を生み出したり、困難な建設工事を成功させたりする話は、それ自身、ドラマ性があって、映画や小説になったりします。しかし、一歩間違えると、宣伝臭がきつかったり、国威発揚的な、お説教くさいものになりかねません。

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 「羊と鋼の森」(宮下奈都作、文芸春秋刊、2015/9初版、2016/411刷)は、ピアノの調律師の話です。
 開発者や製作者ではなく、メンテナンスをする人の話で、地味で奥の深そうな世界であり、暗い森に迷い込んでしまいそうで、小説として成立するものか、心配にすらなります。

 しかし、本屋さんで手に取った理由は、まさに調律師の話だからです。
私自身、音の関係で生活させていただいていた時期が長く、日本音響学会会員でもありました。(ただし、泡沫会員、すでに退会)
なので、学会の見学会で、浜松の「ヤマハ」の工場で調律の話を聞いたことがあり、調律が、単に周波数を合わせるだけの仕事ではないということを、ぼんやりとは知っていましたが、そうなると、技術の世界から出て、「ゲージュツ」の世界に入ってしまい、とても手に負えないと思っていました。

 彼らには、見えないものが見えているということでしょう。
絶対音感はありませんが、ある時期2Hzの違いは明らかに分かりました。しかし、ラの音が、440Hzではなく、最近は、444Hzにまで上がっている場合もあるなどということは、想像もつきません。

 平均律と純正調の話を、さらっと書かれていますし、調律の技術的な細部については、もやっとしていますが、逆に、素人から技能的な専門職に入門した人の葛藤と喜びについて、粘りつかない言葉で描写されていて、その部分で、広く共感できるのではないでしょうか。
 すごく立派な人の話ではなく、こつこつと積み上げていく普通の人の成長物語でもあります。

おすすめ度は、
総合:75%(やや、薄味、雑味なし)
読みやすさ:100%
ドラマ性:70%(十分映画になるレベルだが、抑制的)
所要時間:5時間
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愛知県尾張東部在住. 宗教的なものではありませんが,場所の持つ力に関心があります.また,ものごとの起きるタイミングという意味での時の力にも関心があります.そのほか,落語,オーディオは,子供のころからの趣味です.

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